モノの背後にある歴史を読み解く「デザイン史感覚」という視点を提案
「かっこいい」「かわいい」といったセンスの言葉だけでは、デザインは語れない。身の回りの製品や建築、広告には、それを形づくった人々の意図と、それ以前から積み重なってきた歴史の蓄積が宿っている。そうした見方を提示する新書『日本デザイン文化史』が、2026年8月27日(木)に河出書房新社から刊行された。著者は、近代日本の物質生活史研究を専門とする武庫川女子大学准教授の井上雅人である。
本書が掲げるのは「デザイン史感覚」という視点だ。デザイナーが何気なく選んだ形の背後には、それ以前に別の誰かが下した判断の蓄積があり、その形がいまも意味を持ち続けている場合もあれば、単なる習慣として時代に合わなくなっている場合もある。井上は「はじめに」でそう述べたうえで、あらゆる人工物は完璧な神の産物ではなく、どこかの誰かが与えた不完全な形であり、同時によりよく改良できる可能性に満ちた存在だと説く。
センスの有無で片づけられがちなデザインを、社会の変化を映す運動として読み直す発想は、感覚的な判断に頼りがちなビジネスの現場や、機能と形の両方に責任を持つエンジニアの仕事にも接続する視点だろう。
本書は、西洋文化の流入が本格化した幕末・明治維新前後から、消費社会が芽生えた大正・昭和初期、国策がデザインを左右した第二次世界大戦前後、工業製品が世界を席巻した高度成長期、娯楽性と芸術性が花開いたバブル前後まで、日本近代のデザイン史を通史として概観する。時代ごとの変化を、「モダニズム」「大衆化」「日本らしさ」という三つの視点から読み解く構成である。
取り上げられる事例は幅広い。柳宗理の「エレファントスツール」や渡辺力の「ヒモイス」といった戦後家具、スバル360や戦後初の国産旅客機YS-11といった工業製品、ウォークマンやAIBO、ニンテンドーDSのような生活を変えた電子機器まで、各時代を象徴するプロダクトの図版とともに解説が展開される。
一つひとつの製品を単体の名作として紹介するのではなく、それが生まれた社会背景や、同時代の他の事例と並べて位置づける構成は、モノを通じて時代の空気そのものを追体験させる仕掛けになっている。
著者の井上雅人は、東京大学文学部および文化服装学院を卒業し、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程を経て、現在は武庫川女子大学生活環境学部准教授を務める。専門はデザイン史、ファッション史、歴史社会学で、これまでに『洋服と日本人』『洋裁文化と日本のファッション』『ファッションの哲学』などの著書がある。
刊行に寄せて井上は、デザインをビジネスやマーケティングの文脈で耳にする機会が増えた一方、「センスがわからない」という理由でデザインを敬遠する人も依然として多いと指摘する。そのうえで、きれいさやかっこよさとは異なるアプローチとして「歴史」から学ぶ方法を提案し、古い事例を単なる過去の話としてではなく、作り手と使い手とモノとの関係を示す事例集として読んでほしいと述べている。
新書判・並製で320ページ、定価は1,430円(本体1,300円)。電子書籍も同時発売される。感覚的な「センスの有無」で片づけがちだったデザインを、歴史という補助線を通して読み解き直したい人にとって、仕事や暮らしを見つめ直すきっかけになる一冊である。
日本デザイン文化史(河出新書)
著者:井上雅人
発売日:2026年8月27日(木)
仕様:新書判・並製、320ページ
定価:1,430円(本体1,300円)
ISBN:978-4-309-63208-7
装丁:木庭貴信(オクターブ)
出版社:河出書房新社
公式サイト
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309632087/