2026年6月10日(水)から12日(金)まで、千葉・幕張メッセで、国内最大級のインターネットテクノロジーイベント「Interop Tokyo 2026」が開催される。
FINDERSではこれまでも、通信、クラウド、AI、セキュリティ、データセンターなど、インターネットを支える最新技術が集結する同イベントを取り上げてきたが、今年も、主催者企画や注目セッション、キーパーソンへのインタビューを通じ、その見どころを紹介している。
そして今回は、長年にわたりInterop
Tokyo実行委員長を務めてきた慶應義塾大学特別特区特任教授・村井純氏へのオンラインインタビューが実現した。「日本のインターネットの父」とも呼ばれ、日本のインターネット黎明期からネットワーク社会の発展を牽引してきた村井氏に、今年のInterop Tokyoのテーマである「AIとインターネットの次章。」に込めた意図や、「宇宙」をテーマにした主催者企画「Internet × Space Summit」の狙いなどについて聞いた。
Interopは「未来が本当に動くのか」を確かめる場所
インタビューの冒頭、今年のInterop Tokyoのテーマである「AIとインターネットの次章。」について尋ねると、村井氏はまずInteropというイベントの本質について、「Interop」という名称そのものが「Interoperability(相互運用性)」を意味していると説明する。
Interop Tokyoは、単に新製品や新技術を展示する場ではなく、異なる技術やサービス、システム同士が実際につながり、相互に動作し、社会の中で運用可能なのかを検証する場所として発展してきた歴史を持っている。Interop Tokyoを象徴する存在でもあるShowNetもまさにそうした思想のもとに構築されており、最新のネットワーク機器や技術を会場で実際につなぎ込みながら、現実の環境で相互運用性を検証するという役割を担ってきた。
その一方で、インターネットやコンピューター技術を取り巻く環境は、この数年で急激に変化している。
村井氏は、その変化を象徴する出来事としてコロナ禍を挙げ、「2040年ごろに実現すると考えられていた社会変化が、わずか2年ほどで現実となった」と振り返る。リモートワークやオンライン会議、クラウドサービスを前提とした働き方は、以前から技術的には可能だった。しかし、社会全体へ浸透し、実際のビジネスや生活の中で“当たり前”になるには、もっと長い時間が必要だと考えられていた。それがコロナ禍という社会的インパクトによって、一気に現実へと引き寄せられた。
つまり、先端技術そのものは以前から存在していたが、それが社会に受け入れられ、普及し、サービスとして成立するまでの時間が極端に短くなっているということだ。だからこそ、まだ社会実装される前段階にある技術や考え方に触れ、それがどのように未来へつながっていくのかを体感できる場として、Interop Tokyoの存在意義がより大きくなっているのだという。
そして現在、その変化を最も象徴している存在がAIだ。
村井氏は、「AI時代」という言葉はあまり使わないようにしていると語る。なぜなら、「AI時代」という表現では、AIだけを見ればいいように聞こえてしまうからだ。実際には、AIはインターネット、データセンター、クラウド、分散処理、大規模計算基盤といった膨大なデジタルインフラの上に成立しており、AI単体で存在しているわけではない。
今や「インターネットを知らなくてもAIを知っている人のほうが多い」と言えるほど、AIは急速に社会へ浸透しているが、その背景にはネットワークやコンピューティング、データ流通を支えるインフラ全体が存在している。
重要なのは、「AIがすごい」という話ではなく、「AIを前提にした社会がどう変わっていくのか」を考えることだと村井氏は語る。
AIによってソフトウェア開発のあり方も変わり始めている。これまでソフトウェアの品質や安全性を担保する作業は、熟練エンジニアの知識や経験に依存する部分が大きかったが、現在はセキュリティ上の脆弱性を見つけたり、複雑なプログラムの整合性を検証したりする領域にもAIが入り込み始めている。
それは単に「開発効率が上がる」という話ではなく、どのような人材を育てるべきなのか、コンピューターサイエンス教育は何を中心に据えるべきなのかという、人材育成や教育の前提そのものを変えていく可能性を持っている。
Interop Tokyo 2026が掲げる「AIとインターネットの次章。」というテーマには、そうした社会構造全体の変化を、単なるトレンドではなく、インフラやアーキテクチャの視点から捉え直そうという意味が込められていると解説した。
なぜInteropで「宇宙」を取り上げるのか
村井氏のいうAI前提社会を考える上で、Interop Tokyo、そして実行委員長である村井氏自身がここ数年継続的に力を入れているテーマの一つが「宇宙」だ。
村井氏はかつて、学生たちに「火星に移民したらどんな社会を作りたいか」を考えてもらう授業を行ったという。その中で、「政府は必要なのか」「国境はあるのか」「交通やエネルギーをどう設計するのか」といった問いを立てることで、現在の地球社会で“当たり前”になっている前提を改めて見直せたと振り返る。つまり宇宙は、「地球社会をどう改良するか」ではなく、「そもそも何が必要なのか」を根本から問い直せる場所なのだ。
現在進められているアルテミス計画についても、村井氏はインターネットの未来を考えていく上で二つの面白さがあると語る。
一つは、これまで地球で後付け的に積み上げてきた仕組みを、ゼロベースで設計できる点だ。インターネットは当初、場所に縛られない“サイバースペース”として発展してきたが、現在では位置情報や物流、モビリティ、都市インフラなどと不可分な存在になっている。つまり月面社会では、位置情報や空間情報と統合されたインターネットを最初から前提として設計できることになる。
もう一つは、「月と地球を結ぶ通信インフラそのものが、インターネットの常識を変える可能性を持っている」という点だ。月と地球の間では、光の速度でも片道約1.3秒、往復約2.6秒の遅延が発生する。しかし現在のインターネットサービスの多くは、そうした遅延を前提に作られておらず、実際に2.6秒の遅延環境を再現すると、多くのアプリケーションが「ネットにつながっていない」と判断してしまうという。
そのため月面社会では、遅延や通信断を前提とした新しいネットワーク設計が必要になる。村井氏はこれを「インタープラネタリーインターネット(惑星間インターネット)」と呼び、2012年頃から標準化議論が始まっていたと説明する。当時は未来技術と見られていたが、アルテミス計画の進展によって、「2027年頃には必要になるかもしれない技術」として急速に現実味を帯び始めている。
月面社会を考えることは、単なる“宇宙向け通信”ではなく、遅延や距離を前提にした新しいインターネットを考えることでもある。そしてその試行錯誤は、結果として地球側のネットワークやデジタル社会の再設計にもつながっていく。村井氏がInteropで宇宙を取り上げる理由は、まさにそこにある。
さらに村井氏は、今回で4回目を迎える「Internet × Space Summit」について、「社会のリアリティが大きく変わった」と振り返る。立ち上げ当初は、「そういう時代が来るぞ」と未来を提示する側面が強かった。しかし今では、アルテミス計画という言葉も広く知られるようになり、月探査・月面着陸のニュースも増え、宇宙は社会や産業と地続きのテーマとなり始めている。
さらに、宇宙開発・ビジネスの構造自体も変化している。
かつて宇宙開発は国家主導の巨大プロジェクトだったが、現在はSpaceXをはじめとする民間企業が大きな役割を担うようになり、輸送コストや事業性、継続可能性といった観点が重視されるようになってきた。Interop Tokyoに集まる通信、AI、クラウド、データセンター、モビリティなどの企業にとっても、宇宙は決して遠いテーマではなくなっている。もはや宇宙は特別な場所ではなく、“今ある技術を、まったく新しい環境でどう成立させるか”を考える場となっている。
「Internet × Space Summit」基調講演の見どころ
今回の「Internet × Space Summit」では、基調講演にも大きな注目が集まっている。
村井氏によれば、今回のセッションでは、内閣府関係者や宇宙政策に関わる有識者、NASA関係者など、この分野の最前線にいる人物たちが集結する予定であり、日本の宇宙政策、官民連携、国際協力、民間企業の参画などについて、多角的な議論が交わされる見込みだという。
村井氏自身もモデレーターを務める予定で、「この分野のことを最もよくご存じの方、責任ある立場の方を集めることができました。非常に贅沢な顔ぶれです」と語る。
日本政府としても、宇宙開発をJAXAだけに任せるのではなく、民間企業を巻き込みながら推進する方向へ大きく舵を切っている。その意味でも、今回の基調講演は、日本の宇宙政策とデジタルインフラ戦略がどこへ向かおうとしているのかを知る重要な機会になりそうだ。
また、NASA側も日本との連携を重視しているとされ、アメリカ側の関係者も登壇予定となっている。宇宙開発の専門家だけでなく、通信、クラウド、AI、データセンターなどの分野に関わる企業にとっても、新しい可能性や役割を考えるきっかけになりそうだ。
最後に村井氏は、Interop Tokyoそのものが“境界領域”を取り込み続けてきたイベントだと語る。
AI、宇宙、モビリティ、メディア、都市、教育、エネルギー――インターネットが関わる領域は、今や社会全体へ広がっており、Interop Tokyoは、「インターネットだけ」を扱うイベントではなくなっている。
新しい領域が生まれるたびに、それを積極的に取り込み、多様な人たちとともに未来を考える場が、Interop Tokyoなのだという。
インタビューを通じて印象的だったのは、村井氏が宇宙を単なる“未来市場”や“新しい産業分野”として捉えているのではなく、「社会そのものを根本から考え直すための場所」として位置づけていることだった。
月面にどんな通信インフラを作るのか、どんなデータセンターが必要なのか、どんな交通やエネルギーシステムを構築するのか――そうした議論は、宇宙という特殊な環境を対象にしながらも、結果として現在の地球社会の仕組みや前提を捉え直すことにつながっていく。
村井氏はその意味を、「社会をゼロから作り直せるからこそ、本質を考え直せる」という言葉で表現していた。
Interop Tokyo 2026
会期:2026年6月10日(水)~12日(金)
会場:幕張メッセ (国際展示場 展示ホール3~8 / 国際会議場)
主催:Interop Tokyo 実行委員会
運営:(一財)インターネット協会 / (株)ナノオプト・メディア
参加費:無料(展示会・講演) WEBからの登録制・会期3日間有効
公式ホームページ
https://www.interop.jp/