空き家が目立つ港町を、鯨を旗印にまるごと観光地へ変えた挑戦
古い建物をそのまま宿泊施設やサウナに変え、朝市通りを歩きながら町そのものを味わう。そんな「町ごと体験する」観光のつくり方が評価され、株式会社アミナコレクションが佐賀県唐津市呼子町で手掛ける「呼子プロジェクト鯨の町興し」が、2026年度グッドデザイン賞を受賞した。
アミナコレクション代表の進藤さわ氏は、地元の祭り「呼子くんち」の復興に関わるなかで、町が人口減少と産業の衰退に直面している現実を知ったという。かつて捕鯨で栄えた呼子にとって繁栄の象徴だった「鯨」を町おこしの旗頭に据え、歴史をつなぎながら町の未来をつくる取り組みを始めた。
プロジェクトでは、歴史的な町並みやもとの建物の構造をできるだけ生かしながら、古民家を活用した事業を展開している。宿泊だけでなく、サウナやかき氷店など遠方から人を呼び込むコンテンツを用意し、全国にファンを持つブランドの誘致も進めながら、東京や海外からも人が訪れる観光地づくりを目指している。
旧イカ料理店や朝市通りの古民家が、ホテル・サウナ・食堂へと生まれ変わった
プロジェクトの中核を担うのが「中尾甚六HOTEL本館」である。かつてイカ料理店として使われていた建物を全面改装し、全室がオーシャンビューとなった。客室の窓からは漁師町ならではの海景や美しい夕陽を望める。
本館の1階と2階には、日帰り利用もできる男女共用の本格サウナ「JIN6サウナ」を併設する。「鯨」「イカ」「唐津焼窯」をモチーフにしたサウナ室や、海に浮かぶように設けられた空中水風呂、潮風を感じながら過ごせる外気浴スペースなど、呼子ならではの要素を取り入れた構成になっている。
日本三大朝市のひとつとして知られる「呼子朝市通り」沿いには、歴史ある古民家を改修した「浦田別邸」「熊本別邸」「米勝別邸」が点在する。梁や石積みといった建物の特徴を生かしながら、地域の暮らしの記憶を受け継ぐ宿泊棟として活用されている。米勝別邸と同じ建物の1階にある「甚六朝市食堂」では出汁や米にこだわった海鮮丼を、熊本別邸と同じ建物の1階にある「甚六果実店」では唐津・呼子周辺の旬の果実を使ったかき氷を唐津焼の器で味わえる。
朝市を歩く、海沿いを自転車で巡る、呼子大橋に沈む夕陽を眺める。こうした過ごし方も、町全体をひとつの体験として楽しむための提案になっている。
「使いながら継承する」デザインが評価され、宿泊客の45%超が九州外から訪れる成果に
グッドデザイン賞の審査では、捕鯨文化をはじめとする地域の記憶を現代に継承し、住民の誇りを伴う事業開発である点、建物を保存するだけでなく新たな生業を生み出し「使いながら継承する」デザインになっている点、そして町全体をひとつの体験として東京からも世界からも人を呼ぶ、ローカル再生の未来モデルを示している点が評価された。
審査委員は「地域のアイデンティティを新しくつくるだけではなく、もともとそこにあった捕鯨の歴史を見つめ直し、町おこしの核として磨き上げている点を高く評価した。地域が長い時間をかけて培ってきた歴史や文化は、捉え直すことで、その土地ならではのアイデンティティになり得る。自分たちがすでに持っているものを地域の未来へと活かす、地域デザインの良い例である」と評価している。
応募時点の実績として、宿泊予約のうち九州外からの利用が45.2%に達しており、その内訳は関東60.8%、関西32.4%、海外6.8%だったという。1976年創業で2026年に創業50周年を迎えるアミナコレクションは、「フォークロアの再創造」を理念に、チャイハネをはじめとする衣料・雑貨ブランドの展開に加え、近年はカフェ事業や宿泊・サウナ事業にも取り組んでいる。
古い建物を保存するだけでなく、サウナや食堂、かき氷店といった新しい生業を重ねながら歴史を受け継ぐ呼子の手法は、人口減少に悩む地域で働く人や、週末に町ごと巡るような旅を求める読者にとって、仕事と暮らしの両面でヒントになる事例である。
呼子プロジェクト鯨の町興し
事業主体:株式会社アミナコレクション
所在地:佐賀県唐津市呼子町
受賞:2026年度グッドデザイン賞
主な施設:中尾甚六HOTEL本館、JIN6サウナ、古民家別邸(浦田別邸・熊本別邸・米勝別邸)、甚六朝市食堂、甚六果実店
応募者:株式会社アミナコレクション、株式会社テツシンデザイン、ケース・リアル株式会社、株式会社大森創太郎建築事務所、株式会社yHa architects、株式会社WACT
グッドデザイン賞受賞ページ
https://www.g-mark.org/gallery/winners/34490